“二番目。”
作:眼帯兎
私の一番は妹紅だ。
同姓であるとか、種族が違うなどという理屈は素通りするほどに魅入られている。
彼女の一番は輝夜。
主従の関係でありながらも、共に歩くものとして愛情を抱いている。
私達の想い人は互いに好き合っている。
そして、私達は互いの想い人の幸せを願っている。
十六夜の月夜、私と彼女は逢瀬を繰り返す。
「あの二人はどうも素直になりきれていないところがある、つまり」
「何かきっかけが必要って訳ね」
「……そうだ」
「殺し合う前に媚薬でも服用させようかしら」
「永琳殿、それは流石に……」
私達は星空に包まれながら、仲が悪いようで、本心では好き合っている想い人の為に策略を模索する。
「……殿は付けなくていいのよ?」
「――ん」
不意に、身を寄せられて、私は彼女の肩に頭を預ける形になる。
気恥ずかしさを感じながらも心地良い、私の為のとっておきの場所だ。
「――好きだ……永琳」
「二番目にね」
「それは、貴方も同じだろう?」
「ええ、好きよ慧音」
私達は互いに想い人に届かせる手を自ら切り落した。
だから、二番目の私を彼女は愛してくれている。
私はその愛情に身を委ねている。
彼女の笑顔に支えられている。
しかし、不死の悲しみを持ちながら、彼女を支える者はいない。
時折見せる悲しい表情を見ていると、どうにかして笑ってほしくなる。
私は、彼女の支えになりたい。
無理に出した優しいだけの笑みではなく、心からの笑顔を見せてほしい。
想い人の逢瀬は十五夜に。
私達の情事は十六夜の月の下。
――二番目にね。
二番目なんて、私の心の中にはいない。
私の一番は二人いる。
◇
「毎度飽きることもなく……此処は通さんぞ」
「お互い様よ」
「姫、先に行ってください」
一連の流れはいつもと同じ。
私は従者として、彼女は守人として。表面上は争いながら遊びとしての弾幕を撃つ。
「あいつらは行ったか?」
「えぇ、いつもと違って何故か可愛らしい格好をして行ったわ。良い傾向ね」
私の主、輝夜はもう、内心では妹紅と会いたがっている。
まだ自分では認めていないようだが、確実に惹かれ合っているのだ。
そんな想い人に小さくない痛みを心に感じる反面、あの人の幸せを嬉しく思うところもある。
「上手くいくと良いのだが……」
「大丈夫よ、時間だけは余りすぎているもの」
それに、今は傍らに彼女がいる。
彼女が村人のために薬を求めに来たことがきっかけとなり。
戯れに承諾したことに好意を持ってもらえたのか、その後も彼女とは話を嗜む仲になった。
そして、互いの想い人が好き合っていると気づいてからは協力するようになった。
それから時は流れて、私達の距離は縮まっていく。
彼女は妙に真面目で何処か抜けている。そんなところがとても可愛い。
そのくせ時々知らぬ内に私を支えようとしてくれて。
寂しさを紛らわせてくれて。
いつしか電気信号が彼女を愛せと命令を下すようになった。
子を残す為の脳の機能が、同姓に働くのも妙なことだ。
しかし、そんなことも彼女の前ではどうでもよくなってしまう。
彼女のことに関して、私はどうしようもなく馬鹿になってしまうのだ。
――それは、貴方も同じだろう?
二番目、それが私の言い訳、想い人への裏切りを恐れる私の定めた防衛線だった。
それでも、もう騙し通す自身は無い。
私の一番は二人いる。
◇
「わ、キスしてるぞ」
「まったく、永琳ったら好き勝手言って」
竹林の拓けた岩場に隠れながら、私と妹紅は重なる二つの影を見ていた。
二人の会話は私達の仲のことらしく、私を大いに赤面させてくれる。
幸い隣にいる妹紅には聞こえていないようで、私は顔を背けながらその情事を見守っていた。
「上手くいくと良いんだけどな」
「あの様子なら、自分の気持ちにも気づいているでしょう」
「そうだな……」
呟く妹紅は、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
何故だろうか、私はそれがなんとなく面白くない気もする。
「それにしても、応援しているように思いながら逆に見守られてるなんて。本当に“恋は盲目”ね、天才の名が泣くわ」
「応援? ――ってお前顔が真っ赤だぞ、大丈夫か?」
振り向いた妹紅と目が合って顔が更に熱くなっていく。
あの二人の言葉を聞いてから、私はいつも以上に妹紅を意識してしまっている。
「いいから、さっさと行くわよ」
誤魔化すのも面倒で、私は立ち上がりながら言う。
――不意に、視界が揺れた。
身体がゆっくりと倒れるのを感じながら、視界は縺れた自分の足を捉えている。
音を立てたら見つかるか、そんなことを考えながら瞳は近づいてくる地面を捕らえていた。
そして、激突の瞬間。
私は地面とは逆の方から衝撃を感じていた。
「大丈夫か?」
「――え?」
彼女から伸びた手が、バランスを崩した私の手を掴んでいた。
ただそれだけのことだった。
「あ、ありがとう」
「さっさと行こうか、見つかったら煩いだろうし」
手は繋がったまま、暗い竹林を走っていく。
きっと妹紅は気づいていないのだろうけど、何故か離せとは言えなかった。
気づきかけていた気持ちは、さっきの話でとっくに認めてしまっていたのだ。
「……さて、どうやってくっつけてくれるのか、楽しみだわ永琳」
自然とこぼれる笑みを抑えようとも思わず。
私は繋がれた手に身を任せて、夜空へと目を向ける。
そこには争いの十五夜を終えた、歪な十六夜の月が浮かんでいた。
了
■作者からのメッセージ
永琳と慧音って仲が良さそうだと思うんだ。
それにしても、こういう話を書くのは難しいものですね。
待ち人に続く東方黒歴史二号
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