“四者択一の恋心。”

作:眼帯兎






 焼けてしまいそうな程に暑い日の光が博麗神社を照らしている。  幻想郷の残暑は衰えることなく、人妖等しくその身を焦がしてた。  そんな日を遮ってくれる縁側の影、そこへ吹き込む風も熱に侵された身体を冷やすことはできない。  堪らず、いつもの黒いエプロンドレスを脱ぎ捨てて寝転がった。  熱を集める黒色が無くなると、少しは熱が引いていくような気になる。  霧雨魔理沙は残暑と共にだらけて続けていた。  ふと視線を感じて目線をやると、見慣れた紅白の巫女服が目についた。  そこには湯気を昇らせる湯呑を持つ博麗霊夢が立っている。  その姿を見ただけで、周りの気温が二度は上がった気がした。  よく茶なんて飲めるな、と魔理沙は精一杯の皮肉を込めた視線を送る。  霊夢はそれを気にした様子も無く、はしたないわよ、と冷ややかな視線を返してきた。  お互いに視線の意味は分かっているのだが、互いに噛み合わせようとはしない。  どちらも自分の主張だけを言い合う。  それが幻想郷の少女達なのだ。  二人は暫くの間目を合わせ続けたが、急に馬鹿らしくなって揃って目を逸らす。  霊夢の冷たい視線は魔理沙の精神ばかりに冷気を送り込み、肝心の身体を冷やしてはくれないのだった。 「熱くないのか?」 「暑いわよ、夏だもの」  そっちじゃない、そうやって訂正する気力も今の魔理沙にはなかった。  諦めを感じながら、茶を啜る音を聞き流してぬるい風を感じることに専念する。  いつもと変わらぬ、ごく普通の博麗神社の光景だった。  不意に、生暖かかった風に冷気が混じって魔理沙の身体をくすぐるように通り抜けた。  暫しの時を涼やかな風に身を任せ、熱を奪っていく冷気を堪能する。  寝転がったまま庭へと目を向けると、霊夢が打ち水をしていた。  柄杓を握り、水を放つ。それだけの行為がやけに神聖に見えるのは霊夢の立居のせいかもしれない。  薄く浮かんだ虹に彩られた霊夢は、同姓である魔理沙から見ても美しく映えていた。  魔理沙はようやく身を起こし、快適となった縁側で巫女の打ち水に見入っている。  手馴れたふうに作り出された水の曲線が、落ちては地を色濃く染め上げていた。  輝く飛沫に彩られたそれは、あたかも舞のような美しさを醸し出している。  何も思うことなく、魔理沙は眺め続けていた。 ――ちりん。  突然と聞こえた美しい音色に、没頭していた意識が現実へと戻される。  いつの間にか淡い青の風鈴が取り付けられていた。 「……いいものでしょう」 「あぁ、いいものだな」  突然の声に、魔理沙は分かりきってたかのような言葉を返した。  自分と霊夢は、恐らく同じ表情で見上げているのだろう。  そんなことを思いながら、魔理沙は風鈴を眺め続けていた。 「「ねぇ、魔理沙」」  悪戯っぽく声をかぶせると、霊夢の顔が少しだけ曇った。  それでも文句を言わないところを見ると、どうもはぐらかせることではないようだ。  同時にそれは、魔理沙の耳に痛いことでもあるのだろう。  聞きたくないと思いながらも霊夢を止めることは魔理沙にはできない。 「あの三人はどうなの?」  見事なまでに、霊夢の言葉が突き刺さる。  あの三人、恐らくはアリス、パチュリーフランドールのことだろうか。  一番の悩みであり、一番問われたくないことを彼女は突いてくる。 「私は交友関係が多いからな、三人と言われても分からないぜ。それに、どうって言われても――」  言い終わる前に、視界が陰る。  縁側の天井と霊夢の顔が魔理沙の視界を覆っていた。  恐らくは馬乗りの体制で見下ろしてくる霊夢の眼の冷たさが、魔理沙の言葉が止まった。 「アリス、フラン、パチュリーそろいも揃ってあんたに好意を持っているわ、友人へ向ける程度なんかじゃない恋心ってやつをね」  霊夢の眼が怖い、口答えなどしようものならどうなることか。  故に、魔理沙は言葉を聞くしかなくなる。  はぐらかすことなど、できはしない。 「気づいてる? アリスがあんたが居るときだけフリルの多い服を選んでいることに。パチュリーが薄く香水の香りを纏っていることに。 フランが必死で正気を保っていることに。霧雨魔理沙、貴方はちゃんと気づいてあげているの?」  長く留め続けた感情を吐き出すように、霊夢は語る。  お前は、彼女達をちゃんと受け止めなければならないと、霊夢の眼が言っている。 「気づいてるさ」  だから、魔理沙は正直にそう答えた。  その言葉に、霊夢の表情が曇っていく。 「それなら、私の気持ちには気づいてくれてる?」 「……あぁ」 「私が、あんたにだけ気を許してしまってることに気づいているの?」 「気づいているぜ」  それなら、と霊夢は呟く。  先に続く言葉を、長く共に居た魔理沙は理解できている。 「ちゃんと選ぶよ。だから、泣くな」  その先を、言わせようとは思わない。  霊夢は目の前で一つ頷いて、魔理沙の上から退く。 「私はね、二番でもいいの。博麗は無重力であるべきなんだから」  背を向けたまま、霊夢は呟くように溢した。  無重力の博麗霊夢。その身には誰も届かず、誰も離れることはない。  寂しがり屋な彼女の生き方、それが、魔理沙には言い訳のように聞こえた。 「次に此処に来る時。その隣に誰かを選んでなかったら殺すわよ」 「……あぁ」  ◇  それから一週間の時が流れて、場所は同じく博麗神社。  そこには魔理沙が一人、境内を進んでいた。  目の先には霊夢が箒を持って立っている、その目は困惑さえ浮かんでいた。 「あんた、まさかあの言葉を忘れたとか言うんじゃないでしょうね?」  言葉を言い終えた霊夢の顔には怒りが満ちている。  そんな霊夢に、魔理沙は真っ直ぐと向かい合いながら、言葉を吐いた。 「あぁ、ちゃんと選んだぜ」  笑みを浮かべる魔理沙の隣に人影などあるわけもない。  ただ目の前に、四つ目の選択肢があるだけだった。 「私が選んだのは」  霊夢の顔が強張り、息を呑む音が境内に響く。  そして、魔理沙は選んだ選択肢を、愛する者の名前を告げた。 「紅美鈴だ」 「――は?」 「なんだよ……お前も知ってるだろ、ほら、紅魔館の門番やってる……奴だよ」  魔理沙は己の顔に熱が上がるのを感じながら、呟くように説明してみせる。  霊夢は何故か唖然とした表情を浮かべていた。まぁ、意外だったのかもしれない。 「魔理沙さーん」 「遅かったな、中国」 「うー、わざと言ってるでしょう? 意地悪です」 「悪い悪い、好きだぜ美鈴」 「あ……はい、私もです。魔理沙さん」  背の高い美鈴に肩の上から抱き寄せられて、魔理沙は眼を閉じる。  これが、気持ちに気づかせてくれた霊夢へのできる限りのこと。  しかし、何故だろうか、前面から只ならぬ殺気を先程からビシビシと感じるのだ。  何かがおかしい。魔理沙がそう感じたときには既に手遅れだった。  俯きながら呪を紡ぐ霊夢の指先には、何枚もの符が握られていたのだから。 「夢想封印――」 「「……は?」」 「――集、散、瞬 “JC” 侘、寂 “RC” 夢想……天生!」  それは例えるなら、隙間など存在しない光の奔流だった。  霊符、神霊、散霊、回霊、ラストワード。博麗の巫女が最強と云われるその由縁。  その全てが、博麗神社を、幻想郷を包んでいた。  境内の中には何かの塵と黒焦げた不死身の門番と――  “博麗の鬼神”だけが存在した。 「……ヘヴィだぜ」  それは誰の言葉だったのか。  知る術は、もはや存在しない。  了


■作者からのメッセージ いつもいつも圧倒的な力の差を見せ付けられて、いつしか目標になっていったんです。 彼女を超える為に、彼女に対抗する為だけに、彼女と戦う為に生きていたんです。 そんな彼女が普段とは比べ物にならない魔力を纏いながら言ったんです。 「私について来い」 その言葉に不肖わたくしときめいてしまいまして。 いつしか対抗意識が恋愛感情に変わっていたんです。 そして、私は霧雨魔理沙さんと……その……恋人に、なったんです。 文々。新聞 紅魔館 門番のコメント欄より抜粋。  ■ えっと、霊夢マジごめん。 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 『おれはレイマリの王道純愛を書こうと思ったら、いつのまにかぶち壊しになっていた』 な……何を言ってるのかわからねーと思うが(ry 因みに今作の霊夢は“博麗の鬼神”(GOLDカラー霊夢) テンションゲージは常時100%、HP時間回復、スーパーアーマー等 ゲームバランス? それって美味しいの? といった状態です。 凶悪性はGOLDファ○ストの永遠メテオ、GOLDジョ○ーのミスト○ァイナーを凌駕します。 馬鹿です。 霊夢マジごめん、無限コンボはヤメテ、Dループは嫌だ、くせになりゅぅぅぅ。  ■作中用語解説 JC=ジャンプキャンセル RC=ロマンキャンセル どれもギルティギアという格闘ゲームですね、本当にありがとうございました。



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