“Happy−Birthday”

作:眼帯兎






「――っ! 何なんだ!」  パチェの精霊魔法に不意を突かれて、無様に捕らえられた魔理沙が目前に居た。  意図が解らぬと騒ぐ姿を鼻で笑って、私はただ一言だけ告げる。 「プレゼントを作るのよ、フランの為にね」 「妹君に? どうする気だよ」  訝しげな視線が向けられるが、フランの名が出ると緊張が少し和らいだ。  どうも、フランは良い友人を見つけたようだ。  思いながら、私は何処か悔しいような、微妙な心境で魔理沙を見回す。  先ずは、この汚い格好からどうにかしなければならないだろう。  私の可愛いフランの為に、最高のプレゼントとするのだ  ◆  歪に欠けた月の夜。私はフランの部屋を訪れた。  理由は一つ、次の満月が彼女の誕生日だったのだ。 「フランは何が欲しいの?」 「えっとね、魔理沙がいいな!」  無邪気な返答に、思わず笑みがこぼれた。  傍らでは咲夜が困ったように眉をひそめている。 「妹様、人物は少し無理が……」 「駄目なの?」 「難しいかもしれません」 「いいじゃない。従者たるもの、主の言葉には応えるものよ」  咲夜は一瞬だけ考える素振を見せて、再び笑顔を戻す。 「解りました、お嬢様がそう仰るなら」 「本当!?」  本当に嬉しそうに、フランが部屋を跳ね回る。  それを、咲夜と二人で微笑みながら、私は部屋を後にした。  瞬間、背後から咲夜が消える。私の部屋には今頃、新しい裁縫道具が用意されているのだろう。  本当に、咲夜はよくできた人間だ。  フランは最近よく笑う。  恐らくそれは、あの白黒のおかげなのだろう。  会うたび向けられるその笑顔は、以前の壊れたそれとは重ならない。  そんな笑顔が、私の心をズキズキと痛めつけるのだった。  大丈夫、今からでも遅くはないはずだ。  思いながら、痛む心を慰めていく。  さぁ、最高のプレゼントを用意しようか。  あの白黒は図書館によく訪れる。  それならば、パチェに頼めば捕まえられるだろう。 「レミィの頼みなら、仕方がないわね」 「ごめんね。あの人間、少しは気に入っていたんでしょう?」 「別に、所詮ただの人間よ」  容易は万端。全てはフランの最高の表情を目にする為に。  これではどちらがプレゼントを貰うのかわからないなと、独り溢して私室へ向う。  不意に、ベッドの傍らに置かれた裁縫道具が目に入った。  余興もあれば、もっと理想的な表情を見れるかもしれない。  思いついて、私はゆっくりと針を動かし始める。  一針一針、フランの顔を思い浮かべて悦に浸りながら形を作っていく。  自分は思っていた以上にシスコンなのかもしれない。  いつの間にか、隣には笑みを浮べた咲夜が立っていて、ちょっとしたアドバイスを飛ばしてくれた。  本当に、咲夜はよくできた人間だ。  ◆  日も暮れて、満月が昇った夜空の下、少し歪な人形を抱えて歩く。  その一歩後ろから、お祝いの食事を盆に乗せた咲夜が続く。  真っ赤な扉を眺めて大きく息を吸った。  上手くいくだろうか、喜んでくれるだろうか。  運命を操る術も今は無粋で、私は高鳴る胸に人形を抱いて鎮めていく。  さぁ、パーティーを始めよう。   扉が開くと同時、満面の笑みを浮べたフランが迎えてくれた。  その明るさに、心が音を立てて軋む。 「誕生日おめでとう、フラン」 「ありがとう、お姉様!」  笑顔を前に惨めな心が痛んでいく。  大丈夫だと、決死の必死で支えて、どうにか笑顔を作り出す。 「プレゼントよ」 「わぁ、魔理沙だ! もしかして、お姉様が作ったの?」  人形を渡し、驚くフランに頷いて見せると、満面の笑みが更に深いものになる。  心の軋みが、痛みが治まっていく。  次の瞬間には、私の望んだ表情が見れる筈だから。 「フラン、もう一つプレゼントがあるのよ。あなたは人形なんかじゃ満足しないでしょう?」  期待に満ちた顔、それが咲くのが待ち遠しい。  思いながら、指を鳴らすと同時、最初に咲夜の姿が現れる。  未だに顔を伏せたままの咲夜から食事の盆を受け取って、フランの隣に立つ。 「これが本当のプレゼント。霧雨魔理沙よ」 「……シチュー?」  大きく幕が上がる。喜劇が開演の合図を告げる。  私は蓋の取られた盆を前に唖然とするフランに微笑みかけて、咲夜のほうへと目を向けた。 「今宵、用意させていただいた食事には、全て……霧雨魔理沙を使用しています」  顔を上げた咲夜は泣いていた。  本当に、咲夜はよくできた“人間”だ。 「やああぁぁぁっ!!」  既に食べ散らかされた食事の皿が舞い上がる。  同時に、可愛い笑顔が壊れていく。可愛いフランの狂気が溢れてくる。  私はこれが見たかった。  救われた笑顔なんて、見ているだけで苦痛だった。  フランが求めるのは、私だけでいい。  部屋中の全てがフランの狂気に壊されていく。  私の愛しい、絶望の表情が溢れていく。  愛しているわ、私のフランドール。 「お誕生日、おめでとう」 了


■作者からのメッセージ 可愛い可愛い私のフランドール。 お外はきっと危ないのだから、一緒にお部屋に居ましょうね。 永久に久遠に永遠に。 カーニバルに初めての挑戦です。 自分の得意な作風というのを模索しているのですが、難しいです。 書いていて辛かったので多分自分には無理ですね。



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