“食虫花に御用心。”

作:眼帯兎






 花を見ていた。  季節と共に生まれ、時と共に花を咲かせ、枯れる。  蟲達と生きてきた。  季節と共に生まれ、時と共に大きく育ち、死ぬ。  リグル・ナイトバグは少しだけ違った。  季節と共に生まれ、時と共に大きく育ち、また新しい季節を迎える。  蟲達は、それが蟲の長である者の特権だと言った。  大きく強い身体は、蟲を守る為。  賢く豊富な知識は、蟲を導く為。  長く続くその生は、蟲達を永久に支配する為。  小さなリグルは、数多の蟲達の王である。  しかし、リグルは何故かそうは思えずにいた。  それはきっと、何かが違っているからなのだろう。  ■ ――逃げて。  そんな叫びが、平和な花畑に響いた。  一つ一つは小さな虫の言葉も、集まれば蟲の断末魔の叫びとなる。  夏も過ぎた花畑には、冬を前にした多くの蟲達が集まり、平和な時を過ごしていた。  しかし、それはとても簡単なことで終わりを迎えてしまう。  例えば、先のような小さな悲鳴が上がるだけで、尊いそれは失われてしまうのだ。  和の途切れた花畑の中、リグルは草葉のような髪を揺らして、碧の瞳を大きく見開いた。  その先には、一人の妖怪が立っている。 「こんにちは」  妖怪は笑顔を浮かべていた。  人畜無害な少女を思わせる微笑みは、内面に恐ろしいまでの妖気を隠している。  現に、言葉をかけられただけだというのに、リグルは背筋に氷でも入れられたような冷たさを感じていた。   風見幽香、それが妖怪の名前だった。  いつもは出会う前に蟲を引き連れて逃げていたのだが、深く考え込んでいたせいか、こんなにも近くに彼女は居た。  リグルと同じ、草葉のような緑の髪が風に揺れている。  幽香は手にした日傘を弄びながら、悠然と足を踏み出した。  一歩踏みしめるごとに、蟲達は音を立てて遠ざかる。  それに反して、幽香が目の前に立つまで、リグルは後ずさることすら出来なかった。 「……まだ、おはようの時間かしらね」 「――あ」  鼻先から聞こえたその声に、リグルは目を見開き、声を漏らす。  幽香は少し不機嫌そうに、リグルの返答を待っているようだった。 「こ、こんにちは」  言って、リグルはようやく一歩後ろに下がった。  当然のように景色は動き、覗きこむように顔を近づけていた幽香と一歩分の間が空く。  その間を、面白くないといったように幽香は見下ろしていた。  逃げて逃げてと、蟲達は囁いている。逃げたい逃げたいと、リグルは願っている。  満場一致で逃げることを許容されて、リグルの足は自然と後ろへと向いていた。  微笑みを崩しかけた幽香の気を害さない為に、一言だけ別れを呟きながら―― 「それじぁ……ぎゅ――!?」  後ろ髪を引かれたかのように、リグルの顔は天を仰ぎ、首筋から嫌な音を鳴らした。  無論、リグルが心の隅で此処から離れたくないと願った訳ではない。  辺りを漂う蟲達でさえも、逃げたいと願っているのだ。  ともなれば、この場でリグルの退場を望まない者は一人だけという事になる。 「どこへ行くのかしら、王様?」  考える必要もなく、幽香はあからさまに不機嫌そうに微笑みを歪めていた。  視線をほんの少し下げると、リグルには少し大きい外装の端が幽香の足に踏みつけられている。  引っ張ってみても、それは一寸として動かず、幽香は笑顔を浮かべながらも、かなり気が立っているのだと想像できた。 「は、離して!」 「はい」 ――びたん。  秋の花が敷き詰められているというのに、鼻を打つ痛々しい音は高々と響いた。 「何をしていたの? 王様」  声は微笑みと共に、リグルの頭上から響いてくる。  リグルからは幽香の表情は見えなかったが、恐らく極上の笑みを浮かべているだろう。  それを恨めしく思いながら、リグルはぶっきらぼうに花へと目を向ける。 「花を、見ていたのよ」 「そう、本当に花を?」 「……そうよ、何か?」  リグルは痛む鼻を押さえながら、不審なことを呟く幽香に視線を戻した。  些か棘のあるリグルの言葉に、幽香は眉も動かさず、日傘を弄ぶ。  変わらぬ筈のその笑みは、何かを見透かすような気分の悪い微笑みだった。  その微笑みが一層大きく咲くと同時に、幽香は加虐的な瞳を輝かせる。 「もしかしたら、自分を見ていたのではないか。と思ってね」 「――ッ!」  瞳を細めて、笑みに歪む唇は尚深く、幽香は穏やかにその言葉を囁いた。  思わず息を呑み、リグルは鉄球でも飲み込んだような痛みに顔を顰める。  重い言葉はずしりと、心の奥に落ちていった。 「ねぇ、王様」  クスクスと、忍び笑いが零れ落ちる。  幽香の笑みは、言葉は、リグルの全てを見透かしているように思えた。  それが、どうもリグルの癇に障る。 「……い……な」 「何かしら?」 「王様って、呼ぶな!」  泥の付いた外装をはたくこともなく、リグルは走り出した。  蟲とは似つかぬその足で、蟲とは異なる羽無き飛行で。  リグルは花畑から、幽香から逃げ出した。 「王様なんかじゃない。私は普通の――」  涙を溢し、叫ぶリグルに続く言葉は浮ばなかった。  自身の言葉を否定することも出来ず、リグルは蟲の王様としてその日を終える。  もしかしたらリグルは、自分でも何かに気付いていたのかもしれない。  ◆  空は黒く、夜の色に染め上げられた。  細くなった月は儚く、頼りない光を漏らしている。  闇色の空には月の代わりに星達が輝き、夜を照らしていた。  星明りの夜、天狗の山の奥深くに隠された清流は静かに流れ落ちる。  そんな、尊く美しい景色の中、秋蛍は音も無く存在していた。  規則正しく点滅する光の群れに、火のような強さはない。  それでも確かに、蛍は暗い清流の流れを儚く照らしていた。   透き通った水面に映る光は、夜空を流れる天の川にも劣らぬ輝きを魅せている。  地にありながら、星の河を体現する蟲の傍ら、リグルは何を言うでもなく、立ち尽くしていた。  白い肌は清流の中に映え、一つ歩を進めると、心地良い水音がたった。  しかし、そんな澄み切った清流とは裏腹に、リグルの心中には、何か濁ったものが引っ掛かっていた。  吐き出そうにも、その正体は分からず、リグルは頬に冷気を感じながら、蛍を見つめている。  そして、蛍の光が点滅する度に、リグルは切ない表情を浮かべた。  それは羨望のようで、絶望のようでもあり、哀愁の色を濃く滲ませている。  リグルは鏡のように星を映す清流へ、そっと指を差し入れると、世界を切り裂くように指を引いた。  波紋と共に流れは切り裂かれ、今にも泣きそうな己の姿を掻き消す。  飛沫を上げて引き抜いた指先で、リグルは光もしない自分の身体を抱いた。  瞳には、清流のような冷たさが覗いている。 「なんで、こうも違うのかな……」  蟲の蛍と、蛍の妖怪。  似たような存在だというのに、それはあまりにも違って見えた。  水面に光を落とす蛍は蟲として、それを見守るだけのリグルは妖怪として。  その美しさは、似通うものを感じさせない、全く別の存在だった。 「本当に、まるで別物だわ」  水音だけが支配する静寂に、聞き覚えのある花のように甘い声が届いた。  振向く先には、花も見当たらないというのに花の妖怪が立っている。  浮かべる笑みに明らかな皮肉を感じとり、リグルは恐怖さえ忘れて、微笑む幽香を睨みつけていた。 「あなただって、まるで別物だわ」 「そうかしら?」 「そうよ、全く花とは似付かない!」  そういえばと、幽香はとぼけたように言葉を溢した。  まるで取るに足らない言葉だと言うように、幽香は再び微笑みを戻す。  それは、つまらないことで悩むなと馬鹿にするようで、リグルは頭に熱が昇るのを感じていた。  流れる水も頭を冷やすことは出来ず、リグルは白い指を赤くなるまで握り締めている。 「……行こう」 「――あら?」  指先で蛍を呼び寄せながら、リグルは幽香に背を向けた。  水面には波紋だけを残して、蛍は星空の中に溶けていく。  その去り際、リグルは光の消えた清流を振り返った。  終始微笑みを浮かべていた幽香は、変わらずリグルを見上げている。  その瞳が僅かに寂しそうに見えたのは、暗闇の中、彼女が花に囲まれていなかったからなのだろう。  星の輝く夜、リグルはずっと後ろを気にしていた。  この日から、幽香は度々リグルの前に現れるようになった。  ■  肥ゆる秋は終わり、多くの命は力を失っていった。  儚いものほどその傾向は強く、花は彩りを失い、虫はその命を薄くする。  冷たいくせに優しい冬は、生ある者に容易く死を許容した。  どこか哀愁を感じさせる景色は、無色と言わざるを得ない。  蟲達も例外無く冬の前に命を落とし、乾いた空気の中、佇むリグルにも感情の色は見られない。  その気になれば、リグルはいくらでも蟲を召喚することが出来た。  リグルが寂しいと呟くことで、自然に抗い、季節と摂理から外れた同属は歓喜と共に現れるだろう。  それでも、リグルは何を思うことなく、寒さに身を震わせていた。  王としてか、それとも何かを認めたくなかったのか、理由も解らぬまま、瞳は虚空を漂い続ける。  灰色に染まった空からは、僅かに雨の匂いを感じさせていた。 「……一人、か」  寒かった。肌で感じる冷気はそのまま、リグルの心にさえ及ぶ。  吹き抜ける風は感情を凍らせ、降り始めた雨粒は深く心に沁みていった。  小さく頼りない身体を、容赦なく襲う寒さはリグルを弱らせて、遂にはらしくないことを思わせる。  一匹ではなく、一人と言うのは今のリグルには似合い過ぎている気がした。   蟲が居ない今、彼女は蟲の王ですらない。  ただの、妖怪なのだから。 「――寒くないの?」  その声は近く、一人の妖怪の隣には、やはり一人が立っていた。  聞きなれた声の主は、リグルが独りを感じた頃に必ずやって来た為、何となく予想はついている。  消して強くはなく、それでも寒さを強めていた雨は途切れて、代わりに見慣れた微笑みが降り注いでいた。  弾幕さえ防ぐと謳った日傘は、冷たい雨を当然のように弾き、沈黙を軽快な音で掻き消す。  リグルは問いに答える素振を見せず、漠然と雨の音を聞いていた。 「濡れているわね……」  チェックのハンカチで短い髪を拭われる。  雨で重みを増した髪の毛からは搾り取れるほどの水気を帯びていて、ハンカチは瞬く間に色を濃くしていった。  僅かに盗み見た先に、花の気配はない。冬なのだから、それも当然だろう。  眉さえ動かさず、リグルは水気を拭われた顔を幽香へと向けた。  花のような幽香の笑みとは対照的に、リグルに感情の色は見えない。  その姿に、幽香は笑みを溜息に変えて、まるで手の掛かる子供へ向けるような笑みを浮かべた。 「隣、座るわよ」  リグルは無言のまま、否定も肯定も溢さなかった。  暫しの間沈黙は続いて、不意に、リグルは隣に温もりを感じた。  雨は遮られても濡れてしまった服は冷たく、伝わる熱は僅かである。  しかし、何故だろうか。リグルはその温もりに、言いようのない心地良さを感じていた。  雨に濡れた地に座り込んだ幽香の服は、リグルと同じく濡れてしまっていたが、気にする様子はない。  まるで花が待ちわびていた水を吸うように、幽香は自然体のままである。  独りの寒さが消えたからか、幽香がリグルと同じ一人だったからか。  瞳を閉じて、濡れた服を透して伝わる暖かさに、リグルは暫し身を預けていた。 「何しに、来たのよ……」  ようやく交わした言葉は、素っ気ないものだった。  それでも精一杯に出したリグルの言葉は、雨音の中に消えていく。  幽香は変わらず、微笑んでいた。 「寂しかったから?」 「なんで聞くのよ」 「自分でも分からないもの」  恥ずかしげもなく、幽香は分からないと言い張った。  リグルは初めて、呆れという感情を表しながら、息を吐く。 「なんで、付き纏うのよ」 「何となく」  きっぱりと、淀みもなく幽香は答えを口にする。  その姿を前に、リグルは何を言っても無駄なような気がして、口を噤む。  精一杯に言葉を紡いだことを、今は後悔していた。  雨音の中、再び沈黙が漂い始める。   「なんで、泣きそうなの?」  沈黙を破ったのは、幽香の声だった。  それは、からかうような声ではなく、落ち着いた、優しい声だった。  故に、思わず本当を溢してしまったのだろう。 「寂しかったから」  言って、リグルは後悔と共に再び俯いてしまう。  こんなにも冷え切っているというのに、頬は熱を生もうとしていた。 「……同じね」  隣では、大層嬉しそうに、大妖怪が笑っていた。  意味もなく、雨の中小さな妖怪を傘に入れて、僅かに湿った髪を気にしながら。  幽香は本当に嬉しそうに、笑っていた。  寂しいと溢したばかりだというのに、その姿はリグルと決して重ならない。 「私の隣に居て、楽しいの?」 「そうね、楽しいかしら」 「あんな事を言ったのに?」 ――あなただって、まるで別物だわ。  元を言えば幽香が先なのだが、リグルはどうしてもそれが引っかかっていた。  受け取り方によれば、幽香の全てを否定したような言葉だった。  だと言うのに、幽香はリグルの隣で微笑み続けている。  その理由を、リグルに分かるはずがなかった。 「貴女は蟲じゃない、私は花じゃない」 「……知ってるよ」 「――本当に?」  唐突な言葉に目を伏せて答えるリグルへ、幽香は口を大きく笑みに歪める。  当然、リグルは痛いほどに知っていた。  幽香は花ではない、花を操るだけの妖怪だ。  リグルも蟲ではない、蟲の王様というだけの妖怪だ。  何故なら、幽香には花弁が無い。養分を吸う根も、緑の葉も茎も無い。  何故なら、リグルには手足が4つしか無い。蟲のような羽も、爪も甲羅も無い。  自然の生物の様な短命も、二人は持ち合わせていない。  悲しいくらいに、二人はあれらと違った生き物なのだ。 「あなたは、花じゃない。私も、蟲じゃないわ……」 「いいえ、私は花よ、貴女は蟲だわ」  先とは対照的に、幽香の言葉は全くの逆を差していた。  思わず顔を顰めながら、リグルは瞳を真っ直ぐに幽香へと向けた。  からかうな。そんな意思を込めながら、幽香がいつも本当しか言わないことを失念していた。  幽香の笑みが、深く深く咲いていく。 「だって私は、花が好きだもの」 「何よそれ……」 「自分のことは、自分で決めるって事」  白い陽光に照らされながら、向日葵のように幽香は笑っていた。  それは、いつもの彼女と違う、少女のような無垢な微笑みだった。  その癖、いつもの彼女と同じ、自分勝手な言葉だった。  両方とも、幽香の本当だったのだろう。  不覚にも、その微笑みはまるで花のようだと、リグルは思ってしまった。  半ば呆れたように言葉を返しながら、リグルは羨望の瞳を向ける。  自分も、あのように考えられたらと――。 「リグル、自分で決められないというのなら、私が決めてあげましょうか?」  悪戯っぽい微笑みと共に、幽香の指が眼前に迫る。  自分は何なのか、何であるべきなのか、何で居たいのか。  リグルの答えは、決まっていた。  故に、幽香の微笑みに、満面の笑みで応える。 「冗談、私は蟲よ。誰にもそれは変えられないわ!」  それは、リグル自身が決めたのだから、誰にも否定できる物ではない。  いつの間にか雨は消えて、吹き抜ける風はまだ冷たかったが、リグルの微笑みが陰ることはなかった。  幽香は変わらぬ微笑みで、リグルを見つめている。  どうしようもなく至近距離で、リグルは不意に、似合わぬことをしてしまった。 「ありがとう」  囁きと共に、唇を幽香の頬に寄せる。  音も無く、ささやかなそれは触れるか触れないかの小さな感謝だった。  幽香の笑みが大きく咲いている。 ――足りない。  呟きの直後、リグルは大きく目を見開いた。  眼前には、瞳を閉じた幽香の顔がある。  鼻の先ほどの距離は瞬く間に零となり、リグルは唇に柔らかなものを感じていた。  時にして四つを数える程度、永遠にも感じる四秒が終わって、リグルは冷めた顔を真っ赤に染め上げる。 「あ……え?」 「駄目だったかしら」 「でも、私――」  二度目のキスを感じながら、リグルは瞳を閉じて感触を味わう。  花のような微笑みを浮かべた幽香の唇は、甘い香りがした。  意識を麻痺させられて、ふと離れた両者の唇には透明な橋が掛かっている。 「――女の子同士なのに」  ピシリと、初めて幽香の微笑みが固まった。  頬を朱に染めて、俯くリグルは当然そのことに気付く様子はない。 「げ、幻想郷ではそう珍しくもないわよ!?」  僅かに上ずった声で、言い聞かせるように幽香は呟いた。  リグルは瞳を閉じて、三度目をねだっている。  幽香は覚悟を決めたように、穏やかな微笑みを貼り付けると、三度目のキスを送った。  それはまるで、花が虫を捕食するように覆いかぶさっていく。 「そういえば知っていたかしら」 「……何?」 「虫を餌にする花も、あるのよ?」  ■  零れ落ちる陽光は限りを知らず、緑色の大地に日溜りを作る。  遮る雲も今は無く、日の光は大地を明るく染め上げた。  それは、鮮やかに自己主張をする花畑も例外ではない。  様々な色で自己を表現する草花は日に照らされ、その色を輝かせていた。  そんな、春も中頃という花畑である。当然、蝶や蜂の類も星の数ほど飛んでいた。  どの蟲達も感情の色は見えないものの、その動きは軽やかで、喜色満面といった様子である。  妖精も驚くほどの数の蟲達の中心で、その少女も例外なく花畑に佇んでいた。 「……春だね」  一人呟いたように見えた少女、リグルは草葉のような緑色の髪を風に流しながら目を閉じた。  揺れる髪から覗く虫の触覚は、彼女が妖怪であることを語っている。  独り言のように、妖怪である彼女が語りかけたのは、言うまでもなく蟲であり、花であった。  微笑むリグルの眼前では、蝶が黄色い花弁に身を寄せて、甘い蜜を採っている。  リグルはそれを、自分のことのように嬉しく思い、微笑みを溢していた。  花は繁栄の為に蜜を捧げ、やがて枯れては死に落ちる。  虫は蜜を奪って空を巡り、花が生まれるのを見守り死んでいく。  リグルは自然の摂理や循環といったものを、何よりも好んでいた。 ――逃げて。  突然の小さな蟲達の叫びは、波のように繰り返される。  不意に、蟲達が何かを避けるように道を作った。  その先には、蟲達など文字通り塵でしかないような、強い妖気が漂っている。  それでも、リグルは微笑みを浮かべたまま、目の前の大きな妖気の固まりを見据えていた。 「おはよう、幽香」  恐くないよと蟲達に笑いかけながら。  リグルは大きく、その手を振った。 了


■作者からのメッセージ 自分の形というのは、やはり人の評価によって決まる物なのでしょう。 しかし、自分の在り方、存在というのは自分で決めるものではないでしょうか。 幽香は花と共にある自分を花として決めて、蟲の“王”であり蟲では無いと思い込んでいたリグルはようやく自分で蟲であることを許容した。そんなお話です。 というかアレです、絵板のちゃらむ〜さんの絵に触発されただけと言いますか。 ……ごめんなさい。 ともあれ、此処までお読みくださった方に多大な感謝を。 ありがとうございました。



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