“芽生え。”作:Fimeria私はそれなりに権威のある家に生まれた。 食に不自由することもなく、恐らくは幸せな生だったと思う。 ただし、けして生まれることを望まれない子宝だった。 私はその存在を隠されていた為、外に赴くことは一切、禁じられていた。 それでも、政治や世間体の犠牲なんて感覚は一寸もなかった 私は白子という病に侵された赤子だったのだ。 青い瞳は血の色に染まり、肌と同じく頭髪は無色に近い白。 それは忌子として扱われるべき生だった。 確かに忌み子としての扱いは感じられた。 しかし、そんな私を守るために隠されているという事実も、確かにあったのだ。 白過ぎる肌は日の光を受けると赤く染まるし、薄すぎる肌は血を流すことが多かった。 父上はそんな私に気にかけてくれる良い親だったし。 下級層の民に比べれば、衣食住に困らないこの生活は極上ともいえただろう。 日々の暮らしとしては学問に少しの娯楽。存在を隠されること以外は貴族のそれだった。 屋敷に閉ざされた私は他の子供と変わらぬように育っていく。 唯一つ、他と違うことがあったとするならば、肉親を愛してしまったことだろうか。 表に出ることなく、他者を知らない私が唯一目にする男性。 優しい父上に恋慕を抱くのはまだ幼い心には当然のことだったのかもしれない。 そんな歪な感情を抱き、成人となる頃。町はとある人物の噂で溢れていた。 類を見ぬ美しき姿を持つ女性、名を輝夜といった。 彼女は農民から貴族まで、それはもう様々な男から求婚を受けたそうだ。 この時代、貴族に求婚されたとあっては願ってもないことだったろう。 しかし、輝夜はその一切の縁談を断り。それでも諦めない五人の貴族に手を焼いているということだった。 最初は信じることができなかった。 最近顔を出してくださらなかった父上が、その五人の貴族の内に数えられたことを。 私は初めて禁を破り、輝夜の元へと走った。 出鱈目な噂を流す農民共に目をくれることも無く、ただ父の噂を否定したかったのだ。 しかし、現実は酷なもので、小娘に求婚する父上をこの瞳は映していた。 輝夜は噂に違わぬ美女だった。不自然なほどに整った顔立ち、流れる川のような黒髪。 そして、私の白すぎる肌とは違う、熱を持つくせに白い、生ある肌。 父上の正面に立つ美しい女性。それを見つめながら、陰で泣き伏せる自分。 勝ち目など最初からなかったのだ。 それなのに、私の目の前で輝夜は父上を嘲笑って見せた。 初めての殺意は此処で芽生えた。 何故、自分は短刀を懐に忍ばせなかったのかと痛く後悔したものだった。 この時から、私は少しずつ狂っていったのだ。 次へ→ ←TOP |