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“うそつきの道中。”

作:眼帯兎




 時は金なりと、人間は言った。  短い一生を送る人間は、どうしてだか行き急ぎ、齷齪と働いてその金を食い潰す。  まるで矛盾したその生を思い浮かべながら、てゐは竹林を踏み抜けて、今は里に続く道を歩いている。  春が薫る道筋に、花の甘い香りが鼻腔をくすぐり、てゐは薄く目を閉じた。  降りそそぐ日の光は冬の終わり、踏みつけた草の力強さは春の訪れ。  移り変わる季節を一身に浴びて、てゐは楽しみの待つ山へと歩く。  その足取りは決して急ぐことはなく、一歩一歩を楽しむように踏みしめる。  揺れる花があれば大きく息を吸い、飛ぶ鳥があれば空を見上げ、虫の声が聞こえれば耳を澄ます。  そして、頭の中では邪な企みを掻き混ぜて、てゐは微笑む。  なるほど、時は金なりとはよく言ったものだ。  こうして歩を進める中、どのような手段を講じたものかとてゐは考える。  思い悩むてゐの心には、喜びと期待が満ち溢れているのだ。  こんなにも価値のある時間は、そうはないだろう。  故に、てゐは走ることも飛ぶことも選ばず、あえて歩くことを選んだ。 「里の中にまで入るのは久しぶりだわ」  辛気臭い里の中を笑顔に変えながら、ゆっくりゆっくりと幸せが歩いていく。  一つ足を上げれば、隣で笑顔が咲く。  一つ足を踏みしめれば、その後ろで吉報が送られる。  背後に幸せのラインを象りながら、てゐは一直線に里を横断していく。  その昔、幸せの素兎と呼ばれていた頃のように、里に幸せを送りつける。  自分には何の役にも立たない、他人の為の能力。  そのうち一部で崇め奉られるまでに至った、あまり好きになれない力。  不意に、横目に見た老人が手を合わせて拝んでいた。  これだから、てゐはあまり里には出て行きたくないのだ。 「さて――嫌な思い出が出てきそうだけど」  里を抜けた先、目前に見えてきた妖怪の山の麓には微かな神様の薫り。  神聖すぎて、純粋すぎて、嘘吐き兎には気分の良くない空気が漂うそこは、かつててゐが捨てた場所。 「暇潰しくらいにはなるかしら」  満面の笑みを貼り付けて、先に楽しみがあることを確信する。  何故ならば、今からあらゆる手段をもって、この妖怪の山を楽しくするのだから。  今、嘘吐きな腹黒い兎の神様が、神々の住む山の麓へ降り立った。  願わくば、神気臭い奴らと出会いませんように。




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