“うそつきの要求。”
作:眼帯兎
「永琳様、妖怪の山に出来たという神社をご存知ですか?」
「あら、そういったものもあったかしら」
目に痛い極彩色の猛毒から、見るだけで舌が痺れそうな淡色の苦薬まで。
ありとあらゆる種類の色と香りが入り混じった部屋の中、永琳は振り返ることなく答えた。
鼻につく刺激臭は、手を鼻の前で振ってみても気休めにすらならず。
てゐは眉根を寄せつつ、永琳の背へ言葉を続ける。
「今朝方の新聞に書いてありましたよ」
「珍しいこともあるものね」
「はい、本当に」
それは、天狗の新聞に真実があったことか、それともてゐが新聞を手に取ったことなのか。
恐らくはその両方の意味で、永琳は珍しいとこぼしたのだろう。
「永遠亭とは里を挟んで正反対ですが、一応挨拶に行った方が良いと思いますよ」
「勿論、言い出したあなたが行ってくれるのでしょう?」
「――はい」
てゐは無駄な隠し事をせず、素直に頷いて見せた。
永琳を前に、下手な嘘を吐いても逆に返されるのが常である。
故に、てゐは本人に悪戯を試すとき以外は、大抵正直になった。
それに、永琳は恐らく、任せると言うはずだ。
「それじゃあ、お願いするわ」
「はい、わかりました」
結局、永琳は終始背を向けたまま、製薬から手を放さなかった。
それは、てゐの読みどおり、守矢神社に興味がないことを示している。
つまり、自己の責任で行えば、あちらにどう思われようと構わないということだ。
「それと、あの神社の神様は面倒だから、会うなら巫女だけにするといいわ」
神社への挨拶だというのに、その主である神には会わなくてよいと言う。
それは、てゐの目的が神社ではないことに気づいている証拠でもあった。
悔しいが、その及び付かない頭脳の中でてゐの行動を全て予測し、許しを出したのだろう。
「面倒ですか」
「ええ、何せ二人もいるのだから、面倒事も二倍なのよ」
流石、天才の耳は天狗より早いということか。
それにしても、神様が二人とは、ますます出向きたくなくなる神社だ。
思いながらも、てゐの予定に変更の色は見られない。
「それでは、行ってまいります」
告げて、てゐは足早に永琳の部屋を後にする。
用が済んだ今、自慢の尻尾に嫌な匂いが染み付かないうちに立ち去りたかった。
それに――。
「本当に、珍しいこともあるわね。あなた、あそこの麓に住む神々を避けていたでしょう」
てゐの特別大きな耳が、ぴくり、と揺れた。
永琳は初めて薬から目を放して、柔らかい笑みを浮かべている。
しかし、真に残念なのだが、てゐの耳は特別なのだ。
自分に有利なことは些事でも聞き漏らすことなく。
逆に、不利な言葉は聞こえ辛い。
故に、その言葉はてゐには届かず、一目散に永琳の部屋から遠ざかっていく。
その白い大きな耳に、背後から小さく、永琳の忍び笑いの声が届いた。
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